2012年3月6日火曜日

トミコの愛

昨日、
母親のトミコから留守電が入っていた。

「こう…あはっ。神戸のお母さんです。
いかなご、明日、6日、届きます。ので、食べてくださいっ!以上」

一言一句、このままの留守電。
冒頭の「こう」は噛んでしまったらしく
「あはっ」と照れてから言い直していた。

かなりの棒読みっぷりなんだけど
「神戸のお母さん」って、あんた実の親なんやから当たり前やん、とか
「ていうか、頭っから噛んでるやん」とか
突っ込みどころ満載でかなり笑ってしまった。

「いかなご」というのは
「いかなごの釘煮」のことで
ジャコのような小さな魚を甘辛く煮た保存食。
白いお米にものすごくあう、
私の実家がある神戸市垂水区の名物である。

垂水駅前にはいかなごをイメージした「いかなごモニュメント」があり
そのモニュメントからは「いかなGO! GO!」という応援歌まで流れている。
シーズン中には商店街でいかなご祭りが行われ、
いかなご専用の宅急便やゆうパックが登場する。

いかなごは2月末から3月末の限られた期間しか捕れないので
垂水の人たちは、この時期をものすごく待ち望む。
そして、シーズンの間、何度かいかなごを煮る。
捕れる時期によりいかなごちゃん達の大きさが少しずつ変化していくのだ。

うちのトミコも、もちろんそうで
いかなご漁が解禁した時にも電話がかかってきた。
「お店には出てたけどまだ魚が小さいからあかんわ。
小さいうちにたくと団子になんねん」

その連絡から約10日。
待ちに待ったいかなごが届いた。

「いかなごの釘煮」は私にとって母の味だ。

ある年。実家にいた時にいかなごを食した後
「今回の味はどうやった?」と聞かれた。
何が違うかわからなかったけど
なんか違う、と感じたので
正直にそう答えたら
「あら。としちゃん。わかる? これ、お隣の津守さんが炊いたやつやねん」
とのこと。

この時期、外を歩くと
言いすぎな訳ではなく、本当に
各家庭でいかなごを炊いている香りがする。

そして、お互いの味を交換しあうのだ。

これは○○さんとこのいかなご。
これは△△さんとこのいかなご…
お互いの味を否定はせず、○○さんはこういう味付けなのね、とか
△△さんはショウガが多めなのね、とか
お互いの味を品評し合い、お互いの味を楽しむ。

トミコは私に聞いてきた。
「お母さんのと津守さんのと、どっちが好き?」

ここで、トミコの味を選ばないほど
母親思いじゃない娘ではない。

トミコは満面の笑みで「あら、そう?」と嬉しそうにしていた。

でも、これはひいき目ではなく本当に美味しいのだ。
これさえあれば、ご飯何杯でもいける。

春のはじまりの味で、
母の味。

今年は海を渡った札幌で神戸のお母さんの味を頂く。


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