2012年8月3日金曜日

女知床一人旅 その6

「酋長の家」という
何か起こりそうなワクワクする名前の民宿に泊まった。

知床五湖のトレッキングを終え
寒さでかなり体が冷えきった
私の部屋に電話がかかってきた。

「ご飯、先に食べるって言ってたけど
風邪ひいちゃいけないから温泉に入って温まってきたら?」
少し訛りのある女性の言葉で勧められた。
年齢で言うと
うちの母、トミコくらいの年齢の女性だろうか。

お宿に泊まっていながら
こういう親しげな電話がかかるなんて滅多にないことだから
驚いたのだけど
言われるままに温泉に行った。

温泉につかって温まると
体の疲れが出過ぎて
ご飯なんて食べなくてもいいか、もう眠りたいかも。
という欲求にかられた。

そんなときにまた
部屋の電話が鳴る。

「ご飯、用意出来てるから早く降りていらっしゃい。冷めちゃうわよ」

また、トミコのような女性からだった。

これは行かないとダメなんだな、と
浴衣の帯を締めなおして食堂に向かうと
綺麗にもりつけられたアイヌの伝統料理が並んでいた。

そして、電話の主
このお宿のお母さんが
にっこり笑顔でやってきた。

「イランカラプティ」
彼女が一言目に発した言葉。

アイヌの挨拶で
「こんにちは」とか「こんばんは」とか
時間を問わず使う言葉だそうだ。

本来の意味は
「あなたの心にそっと触れさせてください」
というらしい。

なんと、優しい挨拶なのだろう、と
一気に心が緩んだ。

その後、お母さんは
アイヌ料理を一品一品丁寧に紹介してくれ、
私は味わいながら料理をたいらげていった。
ほろ酔いの気分で
ゆっくりと時間を過ごしていると
今度はお母さんが、アイヌのムックリという楽器を演奏してあげる、と
私一人のために演奏会を開いてくれた。

トランスしてしまう音楽。
少しビールを飲み過ぎたせいか
疲れのせいか
頭の中にガンガンに音楽は鳴り響いたが
決して嫌いではなかった。

ご飯を終え
部屋に戻ったら
何をした記憶もないままに
布団に倒れ込み
知床の夜はあっという間に更けていった。。





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